現在およそ200万人(総人口の約1%)いるとされる、世界最大の日系人社会を持つブラジル。筆者自身も3年間お世話になった、世界で最も好きな国です。サンパウロ市内にあるリベルダージは世界最大級の日本人街です。
日本で活躍している芸能人ではダレノガレ明美さんやサッカー解説者のセルジオ越後さんがいますね。一方、ブラジルではサッカーの本田圭佑選手がボタフォゴFRで活躍していますよね。リオデジャネイロ国際空港に降り立った本田選手が圧倒的な歓声で迎えられたことは、記憶に新しいはず。あのキング・カズこと三浦知良選手もサントスFCというブラジルリーグの強豪に所属していました。
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その歴史は長く、2008年に日本人移民100周年を迎えました。ブラジルでの日系人の評価は極めて高く、ビジネスや学術界において成功している人が多くいます。最初の移民者はサンパウロ州を中心にコーヒー農園の労働力として、過酷な生活を強いられました。やがて、二世三世となり、教育に熱心な家庭は、子息を南米の最高学府であるサンパウロ大学に入学させました。総人口の1%にも満たない日系人でありながら、サンパウロ大学の学生の14%ほどが日系人と言われています。そのため医師や弁護士、経営者など、社会的に成功している日系ブラジル人が多くいます。市中の銀行で日系人専用の口座サービスがあるほどです。
日系ブラジル人の数奇な生涯を描いた、橋田壽賀子ドラマの『ハルとナツ 届かなかった手紙』。主人公を演じた米川涼子と仲間由紀恵の演技は圧巻です。ブラジルの日系人社会を知るためにはおすすめのドラマです。
ポルトガル語のサウダージは英語にも日本語にも訳せない?
ブラジルに行ったことがある方はご存知の「Saudade(サウダージ)」、英語では「nostalgy」、日本語では「哀愁」のような訳され方をしますが、ブラジル人にとっては特別な言葉で、他の言語にはない切ない感情のことだということです。温かい家庭や両親に守られ、無邪気に楽しい日々を過ごせた過去の自分への郷愁や、大人に成長したことでもう得られない懐かしい感情を意味する言葉と言われています[1]。ポルトガルにFado(ファド)という民族音楽がありますが、その歌詞で用いられるサウダージは感情表現の中心になっているようです。
勝ち組って?
「勝ち組」という言葉がありますが、その語源は実は日系ブラジル人が第二次世界大戦後に日本の勝利を信じていたグループを「勝ち組」と呼んだのが始まりです。「負け組」は敗戦という日本の現実を受け入れたグループのことですね。
環境分野での活躍



日系ブラジル人は環境分野でも多大な貢献をしています。筆者が博士課程中にお世話になった、ブラジル宇宙研究所(INPE)のヨシオ・シマブクロ博士も沖縄から来た日系人二世です。シマブクロ博士は日本の宇宙研究開発機構(JAXA)や国際協力機構(JICA)と共同で、衛星技術使ってアマゾン熱帯林の監視システムを構築した第一人者です。INPEでは日系三世のエジディオ・アライ博士も活躍されています。筆者が実際に会った時には、日本語は片言でしたが、日本人のサムライ魂を持った方だと感じました。また、アマゾン研究所(INPA)のニロ・ヒグチ博士も有名で、アマゾン熱帯雨林研究の第一線で活躍されています。
執筆:稲川 武
脚注:
1. Wikipedia「サウダージ」